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2007/06/13

スーパー・アグリ カナダGP舞台裏

以下は『スーパー・アグリ・F1』チームによるカナダGPの舞台裏。

Canada GP Scene (C)Super Aguri F1
拡大します
驚き、ショック、喜びといったドラマが盛りだくさん、というのが今年のカナダGPだった。
レースから一夜明けたカナダのメディアは、3つのテーマで埋め尽くされていた。

ひとつはルイス・ハミルトンの勝利。
この若い天才イギリス人ドライバーの速さ、上手さには誰もが舌を巻いた。

ふたつ目はロバート・クビサの衝撃的な大事故。
クビサをコクピットに収めたまま、引きちぎられたようにバラバラになったBMWザウバーの写真が新聞の第一面を埋めた。
無事だったのが奇跡のような大事故だった。

しかし、一番大切なのは3つ目の記事だった。そこにはこう書かれてあった。
"佐藤琢磨、チャンピオン・アロンソを抜いて6位入賞!"

この事実はスーパーアグリにとって、佐藤琢磨にとって、そして彼らを応援するみんなにとって最も誇れる記事と言えた。
生まれてまだ1歳半にもならない小さなチームであるスーパーアグリF1チーム。
そのチームで走る琢磨が、過去2年連続チャンピオン・アロンソを実力で抜き去ったのだ。

予選から琢磨の流れは非常によかった。
Q3にこそ進めなかったが、Q2で最高タイム1分16秒743を叩き出して予選11番手のグリッドを獲得した。
セクター1、セクター2はいいタイムが出ていたが、赤旗でタイムアタックを中止せざるを得なかった。
それがなかったら、と考えると残念ではあったが、琢磨はサバサバとしていた。
「僕たちの今の状況では考えられる最高のポジションだと思う。
レースでは戦略を考えられるポジションだし、タイヤの使い方も分かってきたので、決勝では力を出し切りますよ」と琢磨。

チームメイトのアンソニー・デビッドソンはQ2に進めなかった。
彼もセクター1は好タイムを記録していた。
だが、その後でタイムが伸びなかったのだ。
「おかしいなあ。なぜセクター2以降のタイムが伸びなかったかわからない。ミステリー。
しかし、このコースは嫌だな。
I hate this circuit! 」と、デビッドソン。
彼は1分17秒542で16番グリッドからのスタートだ。

決勝レースは久しぶりに混乱を極めたものになった。
理由は簡単だ。ジル・ビルヌーブ・サーキットはほとんどエスケープゾーンがない。
コースはぐるりとコンクリート壁に囲まれているし、コースとその壁の間はほとんど距離がない。
ひとつミスを犯すと簡単にコンクリート壁に張り付いてしまう。
実際、23周目にスパイカーのスーティルがクラッシュすると、すぐにセーフティカーが出動。
それからクラッシュの度にセーフティカーが導入され、合計4回を数えた。

しかし、琢磨はまったく冷静にレースを運んだ。セーフティカーとは無縁だった。
と言うより、セーフティカーが出動してレースの流れが変わるたびにそのチャンスを活かして、上位に進出してきたのだ。
出色は50周目のピットイン以降の琢磨の判断だった。
セーフティカーが出動した、まさにその周にピットへ駆け込んだ琢磨は、そこでスーパーソフトタイヤを装着、燃料補給せずにレースに復帰する。
このピットインは同時に何台ものマシンがピットへ入ったために琢磨は順位を落とすが、その3周後に再びピットイン、今度はソフトタイヤに履き替えると同時に燃料を補給して最後の戦いに出て行ったのだ。
「実はスーパーソフトはこのコースに合っていなくて、タレが激しかったんです。
だから、最後のアタックをするためにソフトタイヤに変更したんです」

このタイヤの咄嗟の判断は、ピットクルーを驚かせた。
誰も琢磨がこんなに早くピットへ戻ってくるとは思っていなかった。
しかし、メカニックは琢磨の要求に見事に応えた。
SA07にすぐにソフトタイヤを履かせ、残り周回数を走るだけの燃料を注入して送り出したのだ。この判断が後の琢磨の躍進を助けた。

そこからの琢磨の追い上げは見事というほかなかった。
他のドライバーがピットにはいるのを尻目に8位にまで上がり、さらに攻撃的走りに拍車をかけた。
ゴールまで僅かになった66周目、琢磨はシューマッハーを抜き去り、7位に。
しかし、それでも琢磨は止まらなかった。
そして2周後に誰もが驚くドラマを演出して見せたのだ。
ヘアピンで6位を走るアロンソの背後につけた。
そこからピタリとチャンピオンに背中に張りついて、揺さぶりをかけた。
そして、最終シケインへのアプローチ。長いストレートでSA07がマクラーレンに並び、シケインへの飛び込みでアロンソを抜き去ったのだ。
スタンドは総立ち。日の丸の描かれた菅笠を被ったファンが両手を挙げて琢磨を讃えた。
凄い!

琢磨はチャンピオンを抜き去って6位に進出、そのままゴールまで突っ走った。
「ヘアピンを立ち上がるとき、アロンソのリヤタイヤが滑っていたんです。
あのタイヤでは絶対にシケインのブレーキングを頑張れないと判断して、よし、絶対にシケインでアロンソを抜き去ってやると決めたんです。
気持ちよかった。
スタンドはみんな立ち上がって応援してくれた。まるで鈴鹿のようでした」

終盤の琢磨の走りは、本当に素晴らしかった。
上位が潰れるのを待つレースではなく、相手と張り合ってそれを抜き去ってポジションを上げていくレースをした。
「2004年のアメリカGPで表彰台に立ったときと同じぐらいうれしい。
バトルをして力を出し切ったレースでした」と、琢磨は振り返った。

SAF1 Allstar (C)Super Aguri F1
拡大します
チーム代表の鈴木亜久里は、この信じられない光景をまるで他人事のように見ていた。「シューマッハーを抜いた時には驚いたけど、アロンソを抜いたときには信じられなかった。
あんぐりですよ。
琢磨はすごい。
彼の努力に報えるように我々は本当に頑張らなければ」

マネージングディレクターのダニエル・オーデットは、琢磨の6位入賞に元気づけられて、こう語った。
「素晴らしい結果だ。
これで私が以前から言っている『2008年には優勝を狙う』という言葉が幻想でも何でもないことがわかったと思う」と。

デビッドソンはレースでも不運に見舞われた。
走行中にコースに出てきたビーバーを跳ねてしまったのだ。
結果は11位。
「アンソニーは頑張ってくれているが、不運が続いている。ふたり揃って結果を残せるようにするのが、これから先のスーパーアグリF1チームの課題だ」

鈴木亜久里は兜の緒を締めることを忘れてはいない。

提供:スーパー・アグリ・F1

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